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フィレンツェを流れるアルノ川に架かるヴェッキオ橋、

五月一六日(日)

八時頃、部屋に朝食が運ばれて来た。コンチネンタル・スタイルであった。九時一五分にフィレンツェの中央駅へ着き、列車から降りる。約三時間の小観光が組まれている。乗客は言語別に三組のグループに分かれ、私達は英語組に入る。二〇人足らずのグループで、例のイギリス人夫婦も一緒であった。メインガイドは年配の婦人で、伊、仏、独、英、スペイン語に通じていて、見事に使い分けていた。サブガイドの若い女性が、グループの動きを気遣いながら、メインガイドをサポートしていた。親切で気立ての良い娘であった。傘を手に雨上がりの街へ出て行く。

フィレンツェの路も石畳であった。石の一つ一つがローマのものより大きくて、歩き易い。何かの記念日であったらしく、色々な旗を持った行列が賑やかに通っていた。露店が並ぶ通りを過ぎ、サンロレンツォ教会を見てから、ドウォモ広場に出る。ゴシック様式の大聖堂、サンタクローツェ教会、ジョットの鐘楼、礼拝堂等を巡る。幾何学模様の特徴的な外観であった。ヴェッキオ宮殿の前にあるシニョリーア広場まで行き、皆と一息入れる。私達はエスプレッソを飲む。みち子さんは苦いと言う。皆との会話が始まると、口々に昨夜の着物姿のことを話題にした。結構、印象的ではあったらしい。

次にアルノ川に架かるヴェッキオ橋へ行く。この二階立ての橋は、かつてはメディチ家のものであり、宮殿をつなぐ回廊が通っていたと言う。アルノ川を後にして街中に戻り、メディチ家の家族専用の礼拝堂であったという所に寄る。小さく簡素なもので、中に二間四方位の祠の様なものがあった。近くの辻路で、家の壁に施されたマリア像のレリーフを見つけた。お地蔵さんの感覚だなと思う。少し行くと、広い庭園に囲まれたサンタマリア・ノヴェッラ教会に出た。その向い側が中央駅であった。列車に戻る。

ルネサンスで名高いフィレンツェの町は、案外と小さな町であった。
一二時三〇分に列車が再び動き出す。昼食時刻に食堂車に行くと、昨夜とは違い、皆カジュアルな服装でくつろいでいた。私達の隣の席に二組のカップルがいて、写真を撮り合っていたので、私達もお願いする。その女性達が昨夜のみち子さんの着物姿を見たと話しかけてきて、ビューティフル、エレガンス、写真を撮っておきたかったなどと言ってくれる。悪い気はしない。部屋に戻り、和歌山の村上氏にオリエント急行の絵葉書を書く。列車の揺れが気に障る。みち子さんは娘の百合宛に書いていた。車窓に海が映り始めた。

一六時五〇分にベニスのサンタルチア駅へ着き、列車を降りる。乗客はホームの一隅に集まり、預けた荷物が出るのを待っている。二〇分位かかると言うので、手持ちの荷物を先にホテルに運ぶことにした。ホテルは駅のすぐ横に手配をしていた。みち子さんに駅で荷物を待つように言って、駅前の広場を急ぎ足で通り、ホテルに着くと、みち子さんが後に来ていた。人込みの中を懸命に付いて来たと言う。小生は駅に引き戻す。

駅のホームではトレイン・マネージャーが夫々の荷物の確認と受け渡しを行っていた。荷物を受け取り、顔見知りになった人達と挨拶を交わし握手をして別れる。オリエント急行の二日間は、まずまずの旅と言えた。因みに、一人一〇万五千円とはディナー付きホテルに一等特急運賃、そしてプラス想い出料であろう。

サンタルチア駅は「旅情」の場面である。階段下の駅前広場が船着き場に面しており、人々が行き交っていた。私達の泊るベリーニ・ホテルは広場の入口付近にあり、島内に渡る太鼓橋が架かっていた。当初は島内のホテルを予定していたが、翌々日の出立がサンタルチア駅発朝八時〇二分の列車になっているため、駅に近いこのホテルに変更したのであった。便利ではあるが高級感はない。部屋は二二二号室であった。裏側の、何となく薄汚い感じの部屋である。壊れかかったドアが開けにくくて困った。

食事に出るため、カウンターでレストランを訊くと地図に書いてくれた。太鼓橋を渡り島内に行く。島内の路は総じて狭く、入り組んでいる。地図に書かれたレストランを見つけたが、客がいなくて、割高の感じがしたので、入らずにしばらく歩く。路角で店を見つける。店外のテーブルや店内にも客が入っていた。地元の人が多い様であった。窓を覗くと若いカップルが旨そうな野菜サラダを食べていた。みち子さんに訊くと、ここで良いと言うので中に入り、そのカップルの隣に坐る。

カップルに英語が分かるかと尋ねると、アメリカ人だと答える。私達に旨いお勧めの料理を教えてくれるように言うと、二人は快くアレコレと説明しながら、注文までやってくれた。会話が途中で日本語になって驚く。二人は千葉の中学校で英語教師を二年間していた、この旅は一年後れのハネムーンだと言う、明るく親切なカップルであった。パン、サラダ、肉スープ、スパゲッティを食べる。安くて旨かった。AIBARI・RATTORIAという店である。
暗がりの中、太鼓橋を渡り、ホテルに戻る。長く感じた一日であった。

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